アンドレア・バッティストーニ / 指揮者インフォメーション
ここまで芯の強い音楽を響かせることができる指揮者は、滅多にいない。鮮烈なリズム、そして魔力的なスピードでオーケストラを酔わせるかのようにドライヴしていく。フォルテッシモの密度も高く、エネルギッシュな弾力に満ちながら、旋律の一つひとつにカンタービレが宿る。1987年ヴェローナ生まれの28歳、アンドレア・バッティストーニ。新世代のトスカニーニという呼び声も、あらちこちらから聞こえてくる。 ただ、その緩みない緊張感ゆえ、音楽の流れがいささか直線的になってしまうところもあるように感じられた。もちろん、それは欠点というよりも、若さだけがもたらしてくれる一途さ、果敢さだ。これから経験を積むことで、彼の音楽もまた変化をしていくのだろうーーと思っていたところ、今回リリースされる「展覧会の絵」の演奏を耳にして、この若き指揮者の想像以上の急成長に驚かされたのだった。 初っ端からテンション高めに攻めてくるバッティストーニにしては、最初の「プロムナード」から「古城」にかけては、少しばかり大人しい。各声部をバランスよくふんわり歌わせて、なかなか品がいいのだ。低音のラインの豊かな抑揚が印象的な「ビドロ」から、コントラストの波がさざめき始める。プロムナードをうまく差し挟んで、音楽の変化の流れを見事に捉えている。表情も次第に濃密になる。 「バーバ・ヤガー」から「キエフの大門」にかけ、頂点は高らかに築かれる。もっと一気呵成に行くのかと思うや、テンポやデュナーミクの変化が著しく、巧妙といっていい音楽の進め方だ。まるで「ボリス・ゴドゥノフ」の世界を思わせる鐘とオーケストラのバランスから、閃光を浴びたような一途なコーダを導く。 ロシア・プログラムと銘打たれたコンサートから、冒頭のヴェルディの「運命の力」序曲も収録されている。マリインスキー劇場が委嘱、ロシアで初演されたオペラの序曲だ。 バッティストーニは、「イタリア・オペラ管弦楽・合唱曲集」でこの曲をすでに録音している。オーケストラの違いもあるだろうが、今回の東フィル盤は、より重厚にして、悠然と構えた音楽。これもロシア・プログラムという流れのなかゆえの解釈だとしたらーー若さがトレードマークのバッティストーニ、なかなか円熟味さえ感じさせるではないか。 音楽評論家 鈴木淳史 |